【⒉ 全体を通しての重要テーマ(持続可能な地域社会モデルの実現に向けて)】
私たちが日々元気に生きていく上で、また小田原の魅力を発信し地域の活性化を果たしていく上で、豊かで多彩な、そして健やかな自然や環境と、そこからの様々な恵みの存在は、最も基礎的な社会共通資本です。
小田原に住む市民だけでなく、これから移住を考える人たちにとっても、この自然の厚みや環境の魅力は、働き、暮らし、家庭を持ち、子育てをし、歳を重ねていくまちとして選ぶ上での、重要な判断材料となります。
また、森・里山・田園・川・海がそれぞれに産する農林水産物は、私たちの命を支え養うかけがえのない糧であると共に、地域経済を地に足の着いた足腰の強いものにしていく上でも、また地域の自給力を高め地域圏としての安全を確保していく上でも、極めて重要な資源です。
さらに、小田原が進めているエネルギーの地域自給においても、森・川・海といった多彩な自然の存在は、再生可能エネルギーの生産に大きな役割を果たすものです。
加えて、花や緑に豊かに彩られ、多様ないのちが生きている、健やかな環境の存在は、何より子どもたちの健やかな成長にとって大きな意味を持つものです。
これらの観点から、小田原がもつ豊かな自然と環境をしっかりと保全すると共に、より充実した状態へと磨き上げ、より豊かな状態で次世代へと受け継いでいくために、多様な主体が連携しての様々な取り組みを進めていきます。
これらをトータルに進め、「いのちを守り育てる地域自給圏」としての形成を、引き続き目指します。
人口減少、少子化、高齢化が同時に押し寄せ、様々な社会的課題が重なり合うという、未曾有の時代を乗り越えていかねばならない局面において、私たちはこれまでの意識や考え方、社会の仕組みや文化に安住するのではなく、問題解決能力の高い地域を共に創っていくために、それぞれが立場に応じて、これまで以上に知恵と力を発揮し、相互に連携しながら、役割を果たしていくことが求められています。
そのためには、子どもたちはもとより、シニア層に至るまで、様々な世代の人たちが、この社会を共に担っていく人として育ち活躍するべく、学び、出会い、つながり合っていく場が、広く社会に用意されていることが必要です。
学校教育の現場における様々な学びや体験のより一層の充実はもとより、地域や各分野における協働への参画の機会や、広く一般に開かれた学びの場を拡充すると共に、特に元気なシニア層の更なる活躍(プロダクティブ・エイジング)に向けた取り組みの強化が求められます。
加えて、地域全体の問題解決能力の向上を政策的にリードする立場を担うべき市職員については、より高い意識をもち、職能を進化させていくことが必要です。
このように様々な切り口により、時代を担う人づくり、すなわち「人への投資」を進めていきます。
小田原では、市内の各自治会連合会の地区ごとに、地域別計画が取りまとめられ、それに沿って各地区の特性や課題などに応じた取り組みが活発に行われてきました。その中では、自治会を中心に様々な組織の横断的連携が進められ、順次設立された地域まちづくり組織は27年度末には26の地区全てにおいて立ち上げられるなど、その進化は瞠目に値します。
すでに、この数年間の中の取り組みとして、高齢者を対象とした見守りやサポートといった福祉面の活動や、以前より取り組まれてきた防災面の活動を中心に、地域コミュニティに求められているまちづくりや地域運営上の機能が整備されてきています。この歩みは、あくまでも各地区の主体的な選択と推進に委ねられていますが、一方で地区間の取り組み状況に差が生じていたり、地区内においても取り組みの広がりに応じた体制整備や担い手確保、さらには活動拠点の確保といった課題が顕在化しています。
全国的に見ても、様々な課題を解決していく上で地域コミュニティを単位とした住民自治の取り組みは大きなテーマであり、過疎化の振興などより厳しい状況におかれている地域においては、かなり先進的な取り組みが生まれています。
このような状況を踏まえ、地域コミュニティとして取り組むべき課題領域、備えるべき機能、果たしうる役割、活動推進に必要な態勢、財源、拠点、行政との連携などについて、先進事例にも学びつつ、到達型ともいうべき地域コミュニティ像を見定め、取り組みを進めていきます。
数ある課題の中でも、とりわけ重要であるのは、市民の「いのち」に関わる分野です。これまでも小田原市はまちづくりの命題の筆頭に「いのちを大切にする小田原」を掲げ、様々な取り組みを重ねているところですが、赤ちゃん・子どもからお年寄りまで、全てのいのちが大切にされ、支え守られる地域態勢の強化は、持続可能な地域づくりの根幹に関わるテーマであり、更なる推進が必要です。
妊産婦の健康づくりから始まり、分娩施設や小児医療の確保・充実、待機児童対策、各種子育て支援策、子どもの体力増進、スポーツや食育を通じた健康づくり、障害者への各種サポート、かかりつけ医から高度急性期医療までの充実、地域で安心して暮らせる地域包括ケア態勢づくりなど、一層の充実に向け取り組みます。
加えて、少子化と高齢化の加速に鑑み、「高齢者のお世話をするのは当たり前」「障害をもつ人たちと一緒に活動するのは当たり前」といった意識を、次代を担う子どもたちが自然に育み、地域福祉を支える人材として育っていくよう、あらゆる機会を捉えて工夫していくことが必要です。
地域社会モデルの中心を貫く政策領域として、「いのちを育て・守り・支える」仕組みづくりを据え、取り組みを進めます。
地域が抱える、あるいはこれから直面する様々な課題のよりよい解決と、暮らしやすいまちづくりの推進においては、課題意識をもつ広範な市民が主体的に活動すると共に、市行政と十分な連携や役割分担の下に協働を進めることが不可欠です。幸い、小田原市ではそのような取り組みがこれまでに様々な分野で育ってきました。とはいえ、今後一層本格化・加速化していく少子化・高齢化・人口減少、地域の中での様々な課題の拡大にあたり、その取り組みの強化が更に求められています。加えて、各種社会インフラの老朽化などによりこれまで以上に歳出圧力が高まる一方、人口減少や地域経済の弱体化に伴う税収の減少などから行政サービスの水準維持や課題解決の取り組みに対する財源が追いつかなくなる恐れもあります。そのような状況に鑑みるならば、これからはまちづくりを進め課題を乗り越えていく歓びや楽しみはもちろんのこと、苦労や痛み(負担)もみんなで共有し担い合う「分かち合いの社会」を、市民合意の上で作り出していくことが不可避と考えます。
「分かち合いの社会」づくりを進める上では、防災防犯・環境・まちづくり・地域ぐるみの子育て支援や高齢者サポートなど、これまで力を合わせて取り組んできた様々な「協働」の活動をより一層充実させ、かつその領域を広げていく一方で、担い手を幅広く集め育てていかねばなりません。また、そのような取り組みの必要性や意義に関しての意識啓発も重要になります。さらには、行政サービスの維持や更新、新たな事業の必要性などに対する市民負担についても、適正な「受益と負担」の在り方についてしっかり議論を行い、地域全体としての持続可能性を確保することが必要です。
歴史・自然・文化・産業などの豊富な地域資源と、抜群の地勢的メリットを持ちながら、箱根や伊豆への通過点として捉えられることの多かった小田原。ここ数年の歴史ブーム、新鮮な農水産物を活かした食への注目の高まり、インバウンド観光客の増加、都心近郊へのツアーブームに加え、官民が連携して取り組んできた都市セールス活動も奏功し、小田原の魅力発信が進み、来訪客は増加傾向にあります。
豊かにあることが当たり前だったゆえに、意識して磨き上げて来なかった、小田原の様々な地域資源。そのひとつひとつを、丹念にすくいあげ、「光」を放つように仕立て、つなぎ、見せていくことができれば、それは全て「観光」の強力な資源となり、直接間接に経済活動へと繋がります。
そのような観点から、小田原市では27年度「観光戦略ビジョン」を策定。加えて、「まち・ひと・しごと総合戦略」もとりまとめ、小田原のもつ豊かな可能性を、「観光」の切り口から具体化し、交流人口の大幅拡大と、それによる魅力の発信、ファンの獲得を経て、定住人口の拡大を目指しています。
小田原城天守閣のリニューアルオープン、北条五代の大河ドラマ化への気運盛り上がり、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピックパラリンピックなどの「追い風」の中、商店会や市民団体による観光まちづくりやコンテンツづくりの動きも活発化しています。この機を捉え、市としても「観光」の切り口に取り組みを集中させ、多くの来訪客を迎えることのできるまちづくりと態勢整備を、民間としっかり連携し進めていきます。
地域経済の活性化と、小田原の更なる魅力向上、市民生活や来訪客にとっての便益向上には、小田原の土地利用やまちづくり、各種施設整備のあり方が重要な役割を果たすことになります。
地下街再開や東口駐車場整備、トザンイースト開業など、官民それぞれの整備が進み顔立ちが整いつつある小田原駅周辺、民間の商業施設や再開発の動きが見られると共にまちなか居住ニーズが潜在的に高い中心市街地などでは、今後の適正かつ有効な開発が進むよう、まちづくりの指針やビジョンを共有していく必要があります。また、現在整備が進められている早川漁港周辺の施設整備、今後整備が行われる芸術文化創造センターや文化資料館などを、まちの活性化にしっかりと結びつけることが大切です。
加えて、小田原らしい街並みを創る上で、かまぼこ通りや西海子通り、板橋旧街道やお堀端通りなど、回遊性を高める上で重要なストリートの修景や、貴重な歴史的建造物の保全・活用が望まれています。国が進めようとしている電線類地中化も、小田原ではぜひ取り組みたいテーマです。
懸案となっている市街化調整区域の土地利用、現在利用形態を研究しているイオン予定地、広大な日立関連企業の敷地の土地利用なども、地域経済やまちづくりに大きなインパクトを与えるものです。
これら、土地利用・再開発・施設整備に関する重要課題について、全市的な整合性と財政面に十分配慮しつつ、民間の力が最大限に発揮されるよう、調整と推進を行っていきます。
敷設から長い年月が経過し老朽化の進む、上下水道・橋梁・道路などの社会基盤に対し、市ではこれまでも計画を定め着実にその維持修繕・更新に取り組んでいますが、今後ますますその重要性が高まっていきます。それぞれの長寿命化計画に基づき、着実に作業を進め、市民生活の基盤を維持します。
また、市民生活に欠かせない大型公共施設もここに来て大規模修繕および改修の時期を迎えており、斎場・環境事業センター(ごみ焼却施設)の更新と修繕に取り掛かります。
老朽化と施設狭隘化が進む市立病院は、建て替えに向けた検討作業を本格化させていきます。海に面し傷みの激しい水産市場についても、建て替えを視野に検討を進めます。
学校などの教育施設、老朽化した各支所や消防署所についても、その維持修繕や再配置などについての構想を取りまとめ、順次整備を進めていきます。
いずれも、多額の財政支出を伴うものであり、その財源確保を含め、中長期の行財政運営の中で適切な対処ができるよう、計画を定めて取り組みます。
人口減少と少子高齢化が進み、加えて様々な課題が山積する地方の現状を見るとき、その現場を預かり、住民の暮らしや営みに密着しながら、課題解決に取り組む基礎自治体の役割は、今後ますます重要になってきます。国においても、地方制度調査会などで基礎自治体のあり方が真剣に論じられ、都市制度の見直しなどが行われる中、小田原市も指定を受けていた特例市制度の廃止と中核市制度への統合、また人口規模など一定の要件を備え中核的機能を持つ都市を中心とした連携中枢都市制度などが動き始めています。
一方、わが県西地域では、2市8町のうち6町が「消滅可能性都市」とされたように、神奈川県内においても人口減少や高齢化、それに伴う財政課題などが浮き彫りに成っており、圏域としての持続を考えるとき、これまで中心的役割を果たしてきた小田原市の役割はより一層増しています。
そのような状況に鑑み、同じく中心的な役割を担ってきた南足柄市と協同で、中心市の機能強化に向け、合併や中核市移行などを視野に検討を始めるほか、連携中枢都市圏の実現などを想定した広域連携の強化に向け、協議を始めます。
いずれにせよ、この地域圏の未来を担いうる権能を備えた基礎自治体への進化を目指し、意欲的に研究と協議を進めていきます。